2011-02-18

うちなーバス旅情 35番

   
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    南風原町津嘉山から、那覇へ戻る。
    旧暦十四日の月の下でも、バス停の時刻は読み取れない。
    目線も少し、揺れている。

     「すぐに来ますよ。この辺は本数も多いですから」
    
    その言葉どおりに、ちょうどやって来たバスに乗る。
    国道507号線。
    やがて22時という時刻にしては、車の往来も多い。

     「34番も35番もここまで来れば、那覇までは同じ道中だったな」

    そんなことを思いながら、窓の外に顔を向け、
    小望月に照らされた、赤ら顔であるはずの笑顔に手を振る。



    この日、首里城を後にして、夕刻、所用で南風原に来ることは決まっていた。
    那覇の宿へ戻るために、前もって、兼城十字路からの最終バスの時刻を調べていた。
    漠然と、所用の場所は南風原の中心部だろうという感覚で。

    所用の場所は津嘉山に設定された。
    所用の事案を考えれば、そうなることは予見もできたのだが。
    所用の後のそれぞれの行動を勘案すれば、最も好都合な場所。



    というわけで、津嘉山のカウンターで、ジョッキを、グラスを重ねる。
    いいあんべえの中、時間を忘れて、「所用」にいそしむ。
   
    黄金森の陸軍病院壕や文化センターが縁で通うようになった南風原町に、
    今宵は、ただ、旧交を温めるだけの目的で訪れていることを、
    ふと、不思議に思ったりする瞬間以外は。
    旧交を温めるがゆえに、時に深まる対話に、思考が研ぎ澄まされる時以外は。

    そんな酩酊の中の静寂も、周囲のいいあんべえの声の重層にかき消される。
    模合なのだろうか。
    那覇の飲食店とは、明らかに違う時間、違う空気が流れているように感じる。
    らっきょうの天ぷらに、うめーしが伸びる。


    
    バスの中でひとりになって、酩酊の中の静寂が再び、頭をもたげる。
    昔、沖縄最初の朝、34番のバスで富盛へと向かった道。
    その朝の心境が、鮮明によみがえったりする。

    あの朝も、同乗客の背中を見ていたような気がする。
    




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    思考の中ではひとりであっても、バスの中ではひとりではなかった。

    やがて、この時間に那覇へと向かう、まるで夜行バスのような車中の、
    同乗客のことに意識が向き始める。

    通勤、通学の時間でもない。
    那覇で用事を済ませて、帰宅するというのでは逆方向だ。
    年齢層は高い。
    このまま、終点、那覇バスターミナルまで、時間をともにするのだろうか。


    そんなことを思っているうちに、仲井眞、国場を過ぎる。
    バスは直進し、あのヘアピンカーブを登り始める。
    真玉橋へは左折しない。

    ここで数分前の誤りに気づく。
  
     「35番は与儀に向かうのか」

    那覇を出て、東風平を経由して糸満に至るのが34番、
    那覇を出て、志多伯を経由して糸満に至るのが35番、
    この2系統を、まるで双子の兄弟のように思っていたのだが、
    那覇近くでも、案外、違った道を歩んでいたのか。


    降車ボタンが押され、乗客は少しずつ、降りていく。
    停留所のそばの、それぞれの目的地へと。
   
    那覇を中心に、放射線状に、上り、下りという人の流れがある。
    そんな思い込みとはまったく違う、暮らしの流れが垣間見える。


    降りる乗客へ、残る乗客がさり気なく、視線を送る。

     「ちょっと待ってくださいね~。降りる方が済んでからですね~」

    もしかすると、バスに乗り慣れない乗客が、
    運転手さんからの人間味あるアナウンスに、
    ステップへ半歩かけた足を、半歩戻したりしていたのかもしれない。





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    大潮の干潮のように、空席が増えていく。

    そんな車内の情景を、移ろいを、いつしか、いとおしむように見ている。
    いいあんべえの時の、まどろんだ意識の先鋭化を、
    カメラが記録している。


    明日は天気もよさそうで、予定どおり、大潮の干潮時に、
    南の果ての海岸に立っているだろう。
    
    しかし、暑さよ。
    体力はもつだろうか。
    西町のおかあさんの店でそばを食べて、明日に備えるか。
    まあ、ビールの一杯くらいは、ごあいさつ代わりに飲むだろうけど。
    暑い時こそ、二日酔いは厳禁なんだけど。

   
    那覇バスターミナルが近づく。

    かりゆしウェアの老紳士が、また、降りていく。
    その上品な柄に一瞬、目を奪われる。





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    そのバス停の名前に、ほんの数時間前、首里城をあまくま歩きした記憶、
    その時間をともにした方の記憶がよみがえる。

    その記憶はまた、真和志小学校のタイムカプセルの秘話をも呼び起こし、
    小さな笑いを誘う。

    沖縄到着一日目。まだ、半日。
    それにしては、ずいぶんと濃密な時間が流れたものだと、
    また、笑いが込み上げてくる。

    
    バスは開南のあたりをノンストップで、バスターミナルへと駆ける。

    
-2010/6/25-




 (書かなくてもよかったような気もする補遺)

   「うちなーバス旅情 28番」(2010-01-23)において、2009年2月のある日を踏まえ、
   こんなことを書いたりもしていたのですが・・・  


     これまでの数多くの沖縄バス旅の中でも、二日酔以外で酒気帯びだったことは、
     この暑い一日以外に思い出すことができなし、今後もやるつもりはない。
     ・・・と、沖縄県バス協会の前で宣誓したい。
     ・・・いや、まあ、でも、大人しく乗っているだけなら、別に、いいか。


 
category2010 沖縄旅日記② 夏  time23:42  authorKohagura Erio 

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