2009-11-18

大人の間合い、大人の分別


  「なにをしているんだろう」

  桜の落葉の上を飛び回る二匹の蜂の姿を、子供のような好奇心で追いつづける。
  葉から葉へと飛び移る典雅なリズムに、目と心を奪われる。


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  光の中で小さな影になり、影の中で小さく光る、琥珀色。
  
  やがて、その動きとひとつになる。
  そんな距離にまで近づく。



  大人の間合いを保ちつつ、大人の分別を持ちつつ。

  晩秋のこの低温の中、活動量は落ちている、はず。
  今は繁殖期でも、分巣の時期でもないから、攻撃的ではない、はず。
  フードつきの白いパーカーを着ているので、いざという時、体の黒い部位を隠すことができる、はず。
  だから、これくらいまで、刺激しないように、そっと近づいても、危険はない、はず。



  子供のような好奇心は、飽くことを知らない。

  「何かを食べている?」
  「葉についた、小さな虫?」
  「桜の葉って、もしかして、甘い露を?」
  「それとも、巣を冬仕様にするための素材集め?」



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  セグロアシナガバチ、たぶん。

  どんな生態なのか、そして、晩秋の、桜の落葉の上で何をしていたのか。
  本格的に調べれば分かると思うけれど、
  こんなに近くで、こんなに長く観察するのは、たぶん、最初で最後。一期一会。

  今度会ったら、逃げるかも。




  そういえば・・・

  最初の沖縄旅行の時、大人の間合いを、ちょっと見誤ったことがあった。

  その日は那覇を出て、読谷村内を回り、北中城村屋宜原の「カナ」さんでイラブー汁をいただく、
  そんな行程だった。
  少しタイトなスケジュールだったので、どこかで時間の余裕を作りたいという思いがあった。

  そんな中、朝、読谷へと向かうバスの車中で地図を眺めながら、あることに気がついた。
  帰途、読谷から嘉手納ロータリーで乗り換えて、コザへと向かい、
  夕方のラッシュで混み合う R330を南下するという、当初のプランよりも、
  読谷からそのまま R58を南下し、北谷か謝苅でバスを降りて、
  県道130号を瑞慶覧へと抜ければ、屋宜原へは早く着けるのではないか。
  北谷から瑞慶覧交差点まで約2km、歩いて30分弱といったところか。

  (嘉手納基地と普天間基地の挟間で、R58から R330へ東西に横断するには、
   地図上では、この県道130号が最短距離のように見える)

  ただ、同じように東西を横断できる他のルートと違って、
  この県道130号にだけは、なぜか路線バスが走っていない。
  つまり、ここは基地関係者しか通行しないような地域なのか。
  幾ばくかの好奇心もあった。

  そういうことを話しながら、私は運転手さんに、こんな問いを発した。

   「県道130号を、歩いて、北谷から瑞慶覧まで抜けてみようと思うんですけど。
   でも、道の両側とも米軍キャンプの敷地みたいで、
   それにバスも走っていないみたいですし・・・、どんなもんでしょうか?」

  運転手さんは、しばしの沈黙の後、答えにくそうに答えてくれた。

   「う~ん・・・、おすすめします・・・とは、ちょっと、言いにくい・・・ですねぇ」

  私はその理由を尋ねることなく、この言葉に従うことにした。



  この時は、少し困らせてしまって申し訳なかった、というくらいの思いであった。
  しかし、後になって、よくよく考え直すに、私は、
  「先方が答えに困るような質問をすべきではない」という、
  自分に課した大人の分別に反することをしてしまったと気づいた。

  運転手さんとしては、たとえ1%の確率であっても、
  地域の事情や土地勘に疎い旅行者がトラブルに巻き込まれる可能性があるような行動には、
  賛意を示すことはできない、そういう深慮があったのだと思う。

   「やめておきましょうねぇ」

  かといって、そこまでの強い制止の意思を示すというのは、
  その地域に関する過度のマイナス・メッセージを発することにもなるし、
  乗客と運転手という関係の中で、一線を越えることにもなる。

  つまり、私は、非常に答えにくいと判断できる材料を自ら持ちながら、
  無遠慮に、その問いを発してしまった、そういうことになる。




  蜂は、その生態を理解し、こちらからその安全を脅かさない限り、
  滅多なことでは攻撃はしてこない。

  だが、「蜂」を「基地」と、安易に置き換えて、そのような認識に立つことは危険である。

  一介の旅行者が基地と対峙する時、
  そういう分別を持って、大人の間合いを保つことでしか安全を確保できない、
  今はまだ、そういう状況なのか。

 
category生き物たち  time23:59  authorKohagura Erio 

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